【デレマス】塩見周子「LOVE」

ゴールデンタイムズ


1以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:22:08.33 ID:mgdU2KIu0
   * * *



 (カランカラン――♪)

「あ、いらっしゃいませー!」






2以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:23:35.42 ID:mgdU2KIu0
 朝の予報によれば、午後の早い時間帯には関東の平野部で雨が降るらしい。
 だが、近所で昼飯を済ませて事務所に戻る途中、彼女にバッタリ出会い、この店に立ち寄るまでの間、外はまだまだ強い日差しが照りつける青空だった。

 それにしても、この店に来るのも久しぶりだな。
 相変わらず、客の入りはそれほど多くないらしい。


 奥の窓際のテーブルに案内され、二人で席に着く。

 彼女を担当していた頃は、仕事先へ向かう前の時間潰しや、事務所に戻る途中の反省会にもよく利用していた。
 そういえば、速水さんを連れてきたことはまだ無い。






3以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:26:24.68 ID:mgdU2KIu0
 多少手間取ってしまったが、注文をするとウェイトレスの子は元気よく返事をして、マスターの方へと向かっていった。
 今日はそれほど長居できないので、後日改めてくつろぎに来たい所だが――。


 ――――。

 なんだ。
「偶然だね〜」なんて、白々しく無理矢理誘ってきたのはコイツの方なのに、当の本人はなぜかご機嫌斜めらしい。
 頬杖をつきながら、窓の外へムスッと顔を向けている。

「何をむくれてるんだよ」
「べっつにぃ〜〜」

 まったく、年頃の女の子は気まぐれで困る。
 鼻でため息をつき、ポケットからタバコを取り出し、口にくわえたところで、ハッと気づいた。
 灰皿が無い。


 見ると、店内の壁には「全席禁煙」という張り紙がチラホラ掲示されている。

 でたよ。
 近く世界的なスポーツの祭典が東京で行われるとあって、どこもかしこも揃って禁煙ブームときてる。
 ストレス社会に生きるサラリーマンの数少ない嗜好品を奪うそれは、タピオカよりよほどタチが悪い。


 舌打ちしながら視線を戻すと、周子がこちらを見てニヤニヤと笑っていた。

「へへーん、残念でしたー♪ ついこの間から禁煙だよ、ここ」






4以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:27:50.94 ID:mgdU2KIu0
「こんな所で油売ってていいのか」
 タバコをしまい、今度は俺がむくれる番だった。

「二時からやるミーティング、お前も出るんだろ」

 そう言うと、周子は「あぁ」と曖昧な返事を零しながら、椅子の背にもたれ直した。


 まさに今日、我が事務所が最重要戦略として掲げる新規プロジェクトのキックオフミーティングが間もなく予定されている。
 事務所内でも勢いのある精鋭アイドルを五人、クインテットで組ませるという派手な企画であり、当人達とそのプロデューサーも出席するものだ。

 何を隠そう、目の前にいる塩見周子は、今回選ばれた栄えある五人のうちの一人である。
 そして、俺の今の担当アイドル、速水奏も。
 事務所創立以来となるであろう肝入りのプロジェクトであるだけに、俺だって直前の準備は心身共に万全にしておきたい所だったのに。


 少し間を置いて、当の周子はボンヤリと口を開いた。

「まぁ、どんな雰囲気になるんかなぁって、外堀を埋めるっていうかさ、予め探りを入れといた方がいいかなーって」






5以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:29:13.56 ID:mgdU2KIu0
 ――表面上は普段どおりを装ってはいるが、らしくもない、少し不安を覗かせた顔つきだ。
 コイツも、大仕事を前に多少なりナーバスになっているということか。

「殊勝な心掛けだが、お前のプロデューサーに直接聞けばいいだろ」
「そんなつれないこと言わないでさー、Pさん」

 ケラケラと笑いながら、周子はテーブルの上に身を乗り出してきた。

「なんだよ、あの人とはソリが合わないか?」
「そんなんじゃないって、仲良くやってるよ。
 でも、あの人脳筋」

 と言いかけて、慌てて手を振るう。

「いやいや、何ていうか、小癪な真似とか、小手先の腹芸とか苦手そうやん。
 実際、今日のこと聞いても「心配するな! 当たって砕けてみろ!」としか言われんかったし」
「だろうな」
「ね? だからさ、あたしも事前に情報収集して、心の準備したいんよ。
 他の子達のこととか、この企画の裏事情とかさ。
 Pさん、そういうの詳しいでしょ?」

「…………」






6以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:31:17.96 ID:mgdU2KIu0
 周子の言うとおり、俺はチキンだから、何か新しいことを始める時は、できる限り情報を整理してシミュレーションを重ねることが多い。
 周子も、表向きは感覚派を気取ってはいるが、本音の部分ではこうして慎重な面もあるから、何だかんだソリは合ったのだと思う。
 後任のプロデューサーが、彼女のそういう側面を上手く汲んでくれるといいが――。

 まぁ、今さら俺が心配する筋合いのものでもないか。


「今回のプロジェクトの発起人は、城ヶ崎美嘉のプロデューサーだ」

「へぇ、美嘉ちゃんの」
「表向きはな」

 そう言うと、周子が話の調子を合わせるように首を傾げる。
「何、表向きって?」

「俺達の間では、城ヶ崎美嘉のプロデューサーは一番のヤリ手でな。
 実直で熱意もあり、社内での人望も厚い。
 彼を立ち上げの中心人物に据えておけば、従う社員も多いし、スムーズにプロジェクトが進むだろうという上役の考えだ」
「ふーん」

「もちろん、カリスマギャルの実力も折り紙付きだから、彼女を抜擢することも初期段階から決まっていたらしい。
 順当に考えれば、今回のは城ヶ崎美嘉がユニットのリーダーになって、彼女のプロデューサーがプロジェクトを引っ張る形になるだろうな」






7以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:32:19.49 ID:mgdU2KIu0
「美嘉ちゃん、ねぇ」
 手持ち無沙汰そうにコップの中身をスプーンでいじりながら、周子はまた窓の外に視線を投げた。

「あたし、あの子とあまり話したことないんよね。
 すごいストイックなんでしょ? 仲良くできるかなぁ」

「お前なら、誰とでもそれなりに上手くやれるだろ」
「ふーん、大きなお仕事なのに“それなり”でいいんだ?」
「それがお前の良さだと俺は思っている」

 周子は視線を外に向けたまま、「ふふっ」と鼻で笑った。
 見慣れないピアスが、陽の光に当たってキラリと光る。

「お前はちゃんと自分で考えて行動できる子だ。
 それなりで済ませていい部分と、そうじゃない部分の分別も、お前はつけることが出来る」
「Pさん、どうしたん? えらい褒めるね今日」






8以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:34:14.79 ID:mgdU2KIu0
「担当じゃないアイドルには、いくらでも無責任なことを言えるんだよ、プロデューサーってのは」
「言い方きぃつけや。
 ていうか、そういうお調子の良い言葉は、担当の子にこそ言ってあげるべきじゃない?」

 視線を戻し、キャラメルフロートを掬ったスプーンを向けて、ニンマリと周子が笑ってみせる。

「さてはPさん、ちゃんと奏ちゃんにサービスしてあげてないでしょ」

「ところでそのピアス、どうしたんだ?」
「ごまかすなや。でも、よくぞ聞いてくれましたーん♪」

 得意げに耳元をチラチラ見せびらかすと、先ほどからやや目障りな煌めきが一層際だって見えた。

「プレゼントしてもらったんだー、今のあたしのプロデューサーさんに。
 えへへ、いいでしょ。似合う?」
「あぁ、キレイだよ」
「ホント?」
「ちょっとだけ」
「一言余計だっての、こらぁ」

 笑いながらむくれる彼女に、俺も知らず笑みがこぼれる。






9以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:35:01.37 ID:mgdU2KIu0
 彼女は知る由も無いだろうが、周子が付けているピアスには、心当たりがあった。


 先日、彼女のプロデューサーが、

「おい、お前! 周子は一体どんなプレゼントが好きなんだ! お前、知ってるだろ! 教えろ!」

と、俺が事務所の自販機コーナーで携帯を弄っている時、ドカドカ歩いてきて藪から棒に聞いてきたのだ。


 事情を聞いてみると、

「デカいイベントをこなしたご褒美をしてやりたいんだ! 教えろ!」

とのことだった。


 まぁ、年頃の子ですし、ピアスとか、アイツたぶん自分では買わなそうだから喜ぶんじゃないですか、と適当に言ったら、

「そうか!」

と、そのままドカドカ歩いて帰っていったのだった。






10以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/14(水) 19:35:38.53 ID:mgdU2KIu0
 俺が茶々を入れてやったことなど、言うつもりは無い。
 だが――。

 なかなかどうして、よく似合っている。
 あの人にしては、センスのあるチョイスだ。


 こんな風に会う度に、周子は変わっていく。
 担当から離れると、俺以外の誰かに彼女を染められていくのだということを、今さらながらに実感させられる。
 周子なら、極端に自分を見失うことは無いと思ってはいるが――。

 ヤキモチ、というべきなのか。
 こうも気に掛かってしまうのは、何だか釈然としない。


「それで、Pさん?」




続きを読む
Twitter